フードコンサルタントの河合真由子です。
私達は食べ物を食べる前に、まず見た目でそのおいしさを判断しています。
盛り付けの基本の法則でもうたわれているように、
食品における色彩は、彩りだけでなくその食品の新鮮さや
好ましさを判別する上で非常に重要な役割を果たしています。
今回は、私達はなぜ食品における色を重要視するようになったのか?
その謎を紐解く感覚史とよばれる研究分野をもとに解説していきたいと思います。
感覚史とは、五感を通した人々の生活や社会の変化を理解しようとする試みです。
感覚史の最も重要な提唱者の一人は、アメリカの歴史家マーク・M・スミスです
味覚や視覚といった五感=感覚の歴史をたどる研究である感覚史は、欧米を中心に研究されており、
それは個人の身体的現象にとどまらず、文化や歴史によって規定されているといわれています。
五感といえば、個人の内なる感覚であるという印象であり、また個人差があるともいわれている分野ですが、
その感じ方はどのように文化や歴史の影響を受けてきたのでしょうか?
普段私達が食べている食べ物でどれだけ着色がされているのかご存知でしょうか?
着色というと、人工着色料で色付けされたアイシングクッキーやカラフルなカップケーキなどを
想像するかもしれません。また近年では野菜の色素をつかった野菜パウダーをつかって
着色された食品もみかけます。
ただ、これら着色(人工着色料、天然着色料問わず)以外にも、色の効果を利用して
食品の色をコントロールする技術というのも実は私達の普段の生活に馴染んでいます。
例えば、みかんは、赤いネットに入れられて販売されていたり、オクラが緑色のネットにいれて
販売されている姿を見たことはないでしょうか?
これらは、それぞれ赤いネットに入れることでみかんのオレンジを強調したり、
オクラの緑色を強調するという、色の効果を巧みに利用した例となります。
それぞれ、より新鮮そうにみえたり、より美味しそうに見せる効果があるといわれています。
食品の着色というのは近代になって初めてうまれたものではありません。
遡れば古代エジプトの時代から行われてきており、サフランやアナトーなどの
植物性着色料や、コチニール(乾燥させた虫から抽出した色素)をつかって着色がされていました。
米国で本格的に食品への合成着色料の使用が広がったのは、1870年代といわれています。
当時、工業化、機械化がすすみ大量生産の時代を背景に、より安易に、低コストで
標準化された色を作り出すことができたため、時代の波にのった形で急速に広まったようです。
より、美味しそうに、より魅力的に食品を見せることで消費者の購買欲や食欲を
そそり、購買に繋げたのではないでしょうか。
ただしその一方で、健康被害という負の側面がでてきたというのは
その後のお話となります。
そもそもなぜ私達は食品の色にこれほどまでこだわるのでしょうか?
それはバターの例を挙げて説明するとわかりやすいかもしれません。
合成着色料が台頭してきた当時、いち早くとりいれたのがバター生産者だといわれています。
バターは合成着色料が誕生するより前に一般的に着色料がつかわれていました。
バターは、その原料となる牛乳の色にその仕上がり色が左右され、
季節によって色の変化が大きく、特に秋から冬につくられるバターは
白くなってしまいます。一方初夏〜夏にかけてつくられるバターは明るい黄色をした
バターでした。やがて、人々の中では、この明るい黄色のバターを理想の色とし、
冬場にできる白いバターを正しい色=本来あるべき色に着色するようになったそうです。
そう、私達は自然に、食品に対してあるべき色という固定概念があり
それを追い求めている傾向があります。
例えば、りんごなら、赤いりんごが本来あるべき色であり、そうでない色のりんごをみると
たとえ味が美味しくても、見た目で判断して食べる前から排除してしまう傾向にありませんか?
食品は食べるまではその味がわからない。であるからこそ、なおさら食べる前の判断材料として
その見た目、特に色を判断材料とする傾向にあるのです。
前述のとおり、急速な工業化、大量生産時代の突入とともに
人工着色料が拡大し、そこに更に追い打ちをかけるように、女性の社会進出、核家族化などの
社会背景とともに手早く魅力的な食品を食卓に提供する上で、食品への着色は
欠かせないものとなりました。ただ、それと並行して、人工着色料の健康への懸念も
突出し、規制が強化され、また、新たに天然着色料という新しい着色料をつくる
流れに移行しています。
ただし、天然といえども、例えば、いちごの赤色を強調するためにトマトのリコピンを
使用するのは、果たして天然といえるのかという疑念も残ります。
個人的には、食品における「あるがままの色」と、「あるべき色」との抗争は、
時代の流れ、社会の価値観の変化とともにそのあり方を変えつつ、
但し、今後も私達の食卓を豊かにする要素として存続し続けるのではないかと考えます。
【参考文献】
久野愛 「視覚化する味覚」岩波新書 2021年
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