Recipe of Life | フードスタイリスト、フードコーディネーター河合真由子 東京

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コンセプト設計

コンセプト設計

カウンター席が物置きになる本当の理由、カフェの座席配置はどう設計するべきか。

 

カウンター席が物置きになる本当の理由、カフェの座席配置はどう設計するべきか。
オープン当初は「いい感じのカウンター席だ」と思っていた。設計士に提案されて、違和感もなくそのまま通した。でも実際に営業を始めてみると、不思議なことが起きた。

誰も座らない。

一人客が来ても、テーブル席が空いているうちはそちらを選ぶ。満席に近づいてもカウンターには案内しにくい。気づいたら荷物が置かれ、備品が積まれ、気づいたときには物置きになっていた。

これは珍しいケースではありません。問題は「席」ではありません。「設計思想」にあります。

「カウンター席」という言葉の罠

「カウンター席」と聞いて、どんな席を思い浮かべますか。バーのカウンター、寿司屋のカウンター、ラーメン屋のカウンター、カフェの窓際に一列に並んだ席——これらはすべて「カウンター席」と呼ばれますが、実は設計思想がまったく逆です。

カウンター席には、大きく分けて2つの方向性があります。厨房に向いたカウンター外(窓・壁)に向いたカウンターです。

CORE INSIGHT

この「向き」は単なる家具の配置の問題ではありません。「その席でお客様に何を体験してほしいか」という設計思想の違いです。向きを間違えると、どれだけ素材にこだわったカウンターでも、誰にも選ばれない席になります。

厨房向きカウンターが活きる店

厨房に向いたカウンターは、「見る・聞く・感じる」体験を提供する席です。シェフの手さばき、包丁の音、鉄板の熱気、盛りつけの瞬間——これらを間近で体感できることがカウンターの価値になります。お客様とシェフの会話が生まれ、「この料理はどうやって作るんですか」「今日のおすすめは何ですか」というやり取りが、食体験をひとつ上の次元に引き上げます。

厨房向きカウンターが機能する業態

鮨・フレンチ・イタリアン・鉄板焼き・バー・ラーメン——料理そのものの「制作過程」や「シェフの存在」が体験の一部になる業態。ここではカウンターは「特等席」になります。

窓向きカウンターが活きる店

一方、窓や壁に向いたカウンターは、「自分の時間に集中する」体験を提供する席です。景色を眺める、本を読む、仕事をする、ただぼんやりとコーヒーを飲む——「他者との関わりを最小化して、自分だけの時間を過ごしたい」というニーズに応える席です。

窓向きカウンターが機能する業態

ひとり客を歓迎するカフェ・ブックカフェ・作業ができるコーヒーショップ。窓向きのカウンターは「一人でいることが自然で居心地いい」という空間的なメッセージを伝えます。席に座った瞬間に「ここは自分のための席だ」と感じてもらえるかどうかが、選ばれるかどうかを決めます。

コンセプトと席の向きが噛み合わないと何が起きるか

問題が起きるのは、「カウンター席」という要素だけを取り入れて、コンセプトと向きの関係を考えずに設計したときです。

ケース①:ゆっくり過ごしてほしいカフェ×厨房向きカウンター

そこに座ると、調理の音・スタッフの動き・食器の音が正面から飛び込んでくる。「ゆっくり」できる席ではありません。お客様は本能的に「この席は自分に向いていない」と感じ、選びません。

ケース②:シェフとの会話を楽しんでほしい料理店×窓向きカウンター

シェフは後ろにいて、お客様は壁を見ている。会話は生まれません。厨房との一体感も、臨場感も伝わりません。カウンターを設けた意味がなくなります。

結果として起きること

スタッフが「カウンターにどうぞ」と案内しにくくなる

案内しにくい席は空き続ける

空き続ける席は、いつしか物置きになる

振り返ると、何がいけなかったのか

多くの場合、開業時のカウンター席の設計は設計士やデザイナーが主導します。彼らは「空間として美しいか」「動線として合理的か」という観点でプロです。しかし「その席でお客様にどんな体験をしてほしいか」というコンセプトの問いは、飲食の専門家でなければ設計に組み込めません。

設計士が悪いのではありません。その問いを持ち込まなかった開業プロセスに問題があります。

「カウンター席を作りたい」という要望から始まるのではなく、「このカフェに来るお客様に、どんな時間を過ごしてほしいか。一人でも心地よく過ごせる場所にしたいなら、席の向きはどこが正解か」という問いから始めるべきでした。席の向きは、コンセプトの「翻訳」です。翻訳が間違えば、どれだけ素材にこだわっても伝わりません。

座席設計はコンセプト設計の一部

カウンター席の話に限りません。テーブル席の配置・ソファ席の有無・2人がけと4人がけの比率・座席間の距離——これらはすべて、「誰に・どんな体験を届けるか」から逆算して決まるものです。

ファミリー層を呼びたいなら、子どもが動き回っても周囲に迷惑がかかりにくい配置が必要

ひとり客を歓迎するなら、一人でも居心地よく感じる席の比率と向きが必要

回転率を上げたいなら、長居しにくい硬めの椅子と明るい照明が機能する

ゆっくり過ごしてほしいなら、柔らかい椅子と落ち着いた照明が正解

CONCLUSION

座席設計は、インテリアの問題ではなくコンセプトの問題です。設計士に丸投げする前に、「この店は誰のための・どんな体験を届ける場所か」を言語化しておくことが、すべての空間設計の前提になります。開業後に席を潰すコストを考えれば、コンセプト設計に時間をかける価値は明らかです。


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河合 真由子
Mayuko Kawai
フードスタイリスト / フードコンサルタント
岐阜県出身
大学卒業後、流通業界に就職。販促企画、VMDなどを経験。その後、海外で飲食店の出店支援やカフェの立ち上げに携わる。帰国後、フードコーディネーター養成スクールを経て独立。雑誌、CM、広告のスタイリング、フードコーディネート、飲食店へのメニュー提供、飲食コンサルティングを行う。
めざましTVのお仕事がきっかけで朝型のライフスタイルにめざめ、朝ごはんメニューの提案と朝の時間をもっとたのしみたい女子の朝活コミュニティ「とっておきの朝食会」を主催。
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